ほろ酔い加減でメールチェックをすると、妻と息子からメールが届いていた。どうやらパソコンでお絵描きをして送ってくれたらしい。画像を開くと、ぐちゃぐちやの絵が表れ、斉藤さんは苦笑した。パパとママと……そこにはウルトラマンが!いつも忙しくてインターネットも必要最小限にしか使っていなかった斉藤さんだが、ここでふと思い立った。時間もあるし、ウルトラマンサイトを検索してみよう。
早速検索すると出るわ出るわ、歴代ウルトラマンに関するサイトはたくさんあった。あまり多すぎてどれを見ようか迷っているうちに、斉藤さんは見つけたのだ。それは「アンヌ隊員」の文字。「ゆり子の部屋」というサイトだ。アンヌ隊員はこ存じウルトラマンセブンに出ていた女性で、主役のモロボシ・ダンの心の支えとなり、いつも優しい笑顔で画面に映っていた。
幼い斉藤さんはアンヌ隊員が出てくるたびに胸をときめかせ、その一挙一動をくいいるように見ていた。大人の女性への憧れ……あれは初恋ともいえるかもしれない、と斉藤さんは思った。そのアンヌ隊員とまた会えるなんて……。斉藤さんはすぐにアクセスした。すると、アンヌ隊員のいまのお姿がトップページに表れたのだ― ああ、アンヌ様、あの頃と変わらない笑顔…。
しかもご本人からのメッセージまで載っている。斉藤さんはそのページをくまなくチェックしはじめた。どうやらアンヌ隊員こと、ひし美さんはいまでもエッセイを出したり、CDを出したり、それに伴ってサイン会などもおこなっている模様。何も知らなかった斉藤さんは、明日すぐに本を購入しようと決意した。おまけにゲストブックには、ひし美さん本人が書き込みしている!
斉藤さんはパックナンバーをくまなく読み、こ本人の言葉をすべてチェックした。そして、自分もひし美さんと会話したい、と酔った勢いに任せて匿名で書き込みをした。いつもなら掲示板に書き込みをする勇気など出ないのだが、今日の斉藤さんは違った。それにインターネットなら匿名で話せるという点もありがたかった。これなら知り合いに見つかることなく、思いのたけをぶつけられる。斉藤さんは、少年時代に書くような熱いラブレターをゲストブックに残した。そして、いまさらながらインターネットというネットワークのすこさに驚いた。こうなったらいろいろ探してみようと思いつくままに検索をはじめた。じつは斉藤さんのヒロインはもうひとりいる。それは仮面ライダー・ストロンガーにも出てきた「電波人間タックル」だ。
かなリマイナー色は強いが、凛とした笑顔に斉藤さんはひかれていた。しかし、さすがにタックルはないだろうと検索をかけると、あったのだ。タックル情報はあちこちの特撮ヒロインページに顔を出していた。掲示板ではタックルについていまでも情報が交換されている。では、「アクマイザー3」はどうだ、「大鉄人ワンセブン」はどうだ……。その夜、斉藤さんの熱いネットサーフィンは続いた。
帰宅後、斉藤さんは書類作成にしか使っていなかった自宅のパソコンをネットにつないだ。もちろんアンヌ隊員のホームページを見るためだ。妻や子どもが眠りについたあと、静かにパソコンを立ち上げた。すると斉藤さんの書き込みに他のアンヌファンからレス(※返事)がついていた。自分の熱い思いに同意してくれる人がいるということが、こんなに嬉しいなんて― と、斉藤さんはすっかりそのぺ―ジの常連となった。そのうち他の特撮ヒーロー、ヒロインページにもたびたび顔を出すようになり、その情報量の多さからネットで有名なマニアになってしまった。
ネット友だちもたくさんできた。でも誰もこの有名人が斉藤さんだとは知らない。最初はその匿名性にひかれての参加だったが、斉藤さんは少し物足りなくなってきた。やはり実際に酒でも飲みながら話したい。
もう少し勇気が出たらオフ会にも参加してみよう、と斉藤さんは密かに決意した。
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