斉藤さん(仮名。34歳・既婚)は商社に勤めるバリバリの営業マンだ。34歳ともなると責任のある大きな仕事を任されるし、まだまだ手のかかる部下たちの面倒もみなければならず、忙しい毎日を送っている。かといって仕事一辺倒ではつまらないと、ゴルフ、テニスに加え、最近ではスキューバダイビングまではじめてしまった。趣味の多い夫に妻はあきれ顔だが、4歳の息子ともよく遊ぶ子煩悩なパパなので文句もいえないようだ。
そんな充実した暮らしぶりの斉藤さんだが、彼の中にはくすぶっている思いがあった。それは息子のおもちゃを片づけているとき、いつも訪れるのだ。床に散らばつたウルトラマン人形……。そう、ウルトラマンヘの熱い思いだ。彼の小さな頃からずっとそばにいたウルトラマン。いまもシリーズは違うものの、少年たちの憧れのヒー□―だ。息子のおもちゃと称してビニール人形を集めていたのは、何を隠そう彼自身だ。マニアな斉藤さんの仲間探しはサイトからった。
「ウルトラマンのいいところは、ウルトラファミリーだけではなくて個性的な怪獣たちの魅力なんだよなあ」と、斉藤さんの心は少年時代にタイムスリップした。変身ヒー□―はウルトラマンだけではない。仮面ライダーは初代から見ていたし、変身ベルトも持っていた。歴代変身ポーズはいまでも完璧に覚えている。藤岡弘さんがテレビに出はじめたとき、嬉しくもあり一抹の悲しさもあった。ずっとずっと昔のままのヒー□―でいてほしかった……。
……はっ。斉藤さんは急に我に返った。途端に顔が赤くなるのを感じた。これでは「オタク」みたいじゃないか、こんなこと誰にもいえない、と斉藤さんは頭を振った。この思いはずっと胸に秘めていよう。尊敬してくれている部下にも、スポーツ仲間にも、同級生にだっていえない。もう俺は大人なんだから。
それから―力月後、斉藤さんは金沢へ出張に出かけた。事前から下準備を入念におこなったおかげで商談は見事成立。久々の大きな受注に、仕事仲間もすっかり有頂天。地酒で思い切り祝杯をあげたあと、明日はゆっくりと休んでから帰ることを決め、ホテルの部屋へと戻った。
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